神話から読みとく日本人のメンタリティ
戦前から戦中にかけて日本の神話は濫用・悪用されたため、今でもこれに反感を持つ人がいるのであろう。しかし私は小学校の頃、新しい教科書を學校でもらってきた時、国語(当時は「読み方」と言っていた)の教科書の中に出てくる神話を読むのが何より楽しみだったことを忘れない。
しかし終戦直後は、「古事記」も「日本書紀」も、しばらくの間は学校では使ってはいけない軍国主義の本ということになっていた。その断絶が今も続いているらしく、高等學校の優等生クラスの学生で、しかも大学の文学部にいるのに八咫烏を知っている者がいない。という事態になっているのだ。
日本の若い世代は自分の民族の建国の伝承から疎外されてきているのだ。そういうことを教えない國民教育は義務教育の名に値するのだろうか、という疑念が起こる。
歴史家の中に反対する人がいることも、その理由もよく知っている。従って国史として教えることの難しさもわかる。それなら小学校に「日本神話」として入れるべきではないだろうか、しかも「古事記」に出てくる神話は、話の質としても世界でもっともすぐれたものの一つであることに疑いはない。
すべての日本の子供は自国の神話を共通の記憶として持ってもらいたいものだと思う。北欧のどこかの国の王子様の話やユダヤ人の神話はその後でもよいのではないか。
渡部 昇一著 古事記と日本人
神話から読みとく日本人のメンタリティ
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